カクタス・コミュニケーションズ(エディテージとImpact Scienceの親会社)による翻訳 Translation by Cactus Communications (the parent company of Editage and Impact Science)
昨日は、OSTP政策メモ(別名「ネルソンメモ」)に対する何名かのシェフたちの反応を公開した。本日は、残りの回答を紹介する!
OSTPが発表した政策について、当初の感想はどうだったか?
トッド・カーペンター:出版後すぐにコンテンツを公開しなければならないというメモの要件と、補足データの公開に焦点が当てられていることに、当然のことながら多くの注目が集まるでしょう。このガイダンスは確かに学術成果の普及に影響を与えると思います。他のシェフたちも、それらの問題に注意を向けるのではないでしょうか。
ここで少し、メモのいくつかの詳細について、より実用的で複雑に絡みあったアプローチを取りたいと思います。文書をウェブサイトに投稿することは「出版」ではないのと同じように、オープンコンテンツをどこかのリポジトリに投稿するよう要求することは、科学文献のエコシステムに統合されることと必ずしも同じではありません。OSTP が2013年に発表した元のガイダンス以降、エコシステムでのコンテンツの共有方法に関して過去に見られた結果は微妙でした。したがって、研究成果の配布に関する高レベルの詳細を重視することが重要であるとメモで概説されていることは新鮮でした。
したがって、科学コミュニケーションのインフラストラクチャに関する節に目を向けて評価したいと思います。永続的識別子、メタデータ、ファイル構造といったありふれた世界は、メモ、中でも脚注や追加文書へのリンクにおいて重要な役割を果たしています。この政策には、オープンサイエンス・エコシステムの使いやすさ、追跡可能性、完全性に大きな違いをもたらすさまざまな技術的詳細への指針が組み込まれています。
…メモは、出版物を利用可能にするだけでなく、印刷ができない文書に対するアクセスも可能にする「機械可読性を可能にする形式で」利用可能にすることを概説しています。
たとえば、OSTPのメモは、出版物を利用可能にするだけでなく、印刷ができない文書に対するアクセスも可能にする「機械可読性を可能にする形式で」利用可能にすることを概説しています。この脚注では、これに広く使用される適切な形式としてNISOのJATS規格が挙げられています(4ページ第3項、a、ⅲおよび脚注#5を参照)。単に学術成果物をファイルとして配布するだけではなく、その「意味論的意味」を失わないようにするのです。研究の完全性について言及しているメモの後半の節では、「著者、資金提供元、所属」の識別における透明性の重要性や、連邦政府が出資した研究のその他の側面について述べています。このオープン性を促進させるためには、識別子とメタデータのネットワークを活用するのが最善です。第4節(6ページと関連する脚注 16、17、および18)では、ガイダンスのこれらの重要な構成要素を強調し、特にメタデータと永続的識別子(PID)に対する期待について概説しています。これらの要素は、この政策の影響評価と科学投資の影響をより全体的に支えるために必要なデータを収集する上でも重要なことです。
この政策のこれらの要素は、義務付けられた公的にアクセス可能な出版物とオープンデータのエコシステムを、ナビゲート・検索・利用しやすくすることでしょう。FAIR原則を構成するものの多くは、発見、使用、再利用のためのメタデータと識別を中心としています。ただし、システムの観点からみると、これらの要素が、コンテンツのパブリックアクセス規定のようには、資金調達の指令によって公平にサポートされない点は厄介なことです。ある程度のサポートが編集と配布に配分されると仮定すると、コストが低下する中で出版プロセスから無駄を削減するという競争において、これらのシステムが「映像を編集する部屋の床に散らばった切られたテープ」のように残されないようにするという懸念があります。これらのインフラストラクチャ・システムの構築、データ入力、運用開始後の保守作業は安いことではありません。研究エコシステムには、新しく作成された成果物をサポートしてきた長い成功の歴史がありますが、最初の資金が使い果たされた後にそれらのシステムをサポートすることになると、記録はそれほど輝かしくはありません。うまくいけば、オープンコンテンツを支えるインフラストラクチャを提供するというこの側面は、初期出版料が期待されるのと同じ方法でサポートされるでしょう。OSTPレベルでこれらの問題が注目されていることは、おそらく、主要な資金源として出版エコシステムに依存するのではなく、より体系的な方法でこれらのシステムへの国家資金の投入を促進することになるでしょう。
アンジェラ・コクラン:OSTPによるメモの発表よりも、それに伴う経済的影響報告書により、いくつかのことが頭に浮かびました。第一に、査読が高く評価されているという認識があります。そうでなければ、このメモにはプレプリント版が必要になるでしょう。問題は、査読の促進には費用がかかるという認識が伴っていないことです。誰が何と言おうと、大部分の研究者は、査読のためにプレプリントサーバーで論文を探して余暇を無作為に過ごすことは決してありません。仮にそのような時間があるとしても、これには数多くの問題が伴います。ジャーナルは、高価なシステムとスタッフリソースを使用して、紛争を削減するとともに、ますます多くのバイアストレーニング、査読者のメンタリング、およびその他のトレーニングを確実に実施しようとしています。
従来の査読のすべての利点については説明しませんが、OSTPはそれを理解しているようです。彼らは、無料の公開バージョンを、助成金レポートでも、データだけでも、投稿された原稿でもなく、査読済みのバージョンにしたいと考えています。
従来の査読のすべての利点については説明しませんが、OSTPはそれを理解しているようです。彼らは、無料の公開バージョンを、助成金レポートでも、データだけでも、投稿された原稿でもなく、査読済みのバージョンにしたいと考えています。ほとんどジャーナルが採用しているのですが、購読モデルによる運営を行っているジャーナルでは、これにより問題が生じます。今日知られている査読を維持するための唯一の答えは、査読に料金を請求することなのです。
第二に、他の方々が指摘しているように、経済的影響報告書は不十分でした。報告書は、オープンアクセス(OA)政策のロビイストによって提供された欠陥のあるデータに大きく依存しています。論文掲載料(APC)の平均額は2,500~3,000ドルにとどまらないでしょう。これは、APCが人為的に水増しされるからではなく、投稿論文を厳選しているジャーナルの場合ではAPCモデルがその価格帯では機能しないためです。
OSTPの報告書は、技術開発とインフラストラクチャが安価なオンライン出版を可能にしていると彼らが主張していることに同意しているようですが、これらの技術とインフラストラクチャは、出版社によって支払われ、財政的にサポートされ続けていることに言及していません。将来、どの活動がどの組織によって資金提供される必要があるかについて考える価値があります。この報告書は、差し止め措置がなければ盗作の検出がより簡単になると具体的に主張しており、有料コンテンツの壁内で盗作スキャンに我々全員が既にお金を支払っていることを、OSTPは知らないのではと思わざるをえません。そして、我々は出版前にそれを行っているのです。
…論文を厳選して採択しているジャーナルは、OAに「すばやく動く」のに苦労するでしょうし、差し止め措置なしでグリーンを許可することはまずありえません。このカテゴリーに属するジャーナルの多くは学会誌であり、多くのコンテンツを募集しています。このコンテンツの一部は、最新の研究に関する背景と重要な解説を提供しているため、ジャーナルの中でも最も読まれている論文です。これは、APCを徴収できるコンテンツではありません…
最後に、論文を厳選して採択しているジャーナルは、OAに「すばやく動く」のに苦労するでしょうし、差し止め措置なしでグリーンを許可することはまずありえません。このカテゴリーに属するジャーナルの多くは学会誌であり、多くのコンテンツを募集しています。このコンテンツの一部は、最新の研究に関する背景と重要な解説を提供しているため、ジャーナルの中でも最も読まれている論文です。これはAPCを徴収できるコンテンツではなく、現在その多くは無料で読むことができます。私は、オリジナルの研究はOAであり、残りは購読を介してアクセスされる有料コンテンツの壁の背後にあるハイブリッドモデルの継続を予測しています。団体がこのコンテンツに購読料を支払うほど十分な関心があるかどうかはわからないので、このことは保証されません。OAジャーナルは、明白な理由からボリュームモデルで運営されています。これは、掲載する論文を選ぶジャーナルでは機能しません。また、一部のOA出版社は、ある程度厳選するOAジャーナルを維持してきましたが、厳選しないOAジャーナルも発行することによりそれらをサポートすることで維持しています。多くの学会は、高品質で十分に吟味された影響力のあるコンテンツを約束することで、商業雑誌と差別化(適正であるかどうかは別にして)しています。論文を厳選しないOAジャーナルを抱えることは哲学的な障壁なのです。
パンデミックの影響、人件費の高騰、出版費用を押し上げている継続的な統合により、小規模な出版社や学会の出版部門は既に懸命の努力をしています。このOSTPの政策で見られる変更のタイミングはもう一度苦汁を飲まされるような経験となり、規模の小さい組織の中には生き延びることができないところも出てくるでしょう。
リサ・ジャニケ・ヒンクリフ:このメモについては、今後数か月のうちに多くのことが語られるでしょう。私はすでにTwitterで差し止め措置なしについてかなりのことを述べてきたので、本日は「科学と研究の完全性の確保」の節に注目したいと思います。ここでは、メタデータと永続的識別子、および関連するインフラストラクチャに関する事柄について推奨しています。政府機関がメタデータを収集して利用できるようにするための最低要件は、著者と共著者の名前、所属、それから資金源、発行日、研究成果の一意のデジタル永続的識別子です。連邦政府から資金提供を受けている研究者は、個人のデジタル永続的識別子を取得するように指示され、政府機関は、識別子を通じて資金提供機関と受賞者をリンクするために、「すべての科学研究開発賞および機関内の研究プロトコルに一意のデジタル永続的識別子を割り当てる」ように指示されています。これらの規定を実施するための完成した計画は、2026年12月31日が期限であり、発効日は政府機関の計画の公開後1年以内となっています。
これらのメタデータと識別子が、科学と研究の完全性を保証するためにどのように想定されているかはあまり明確ではありません。著者情報が出版物から省略されることは滅多にありません(ただし、ペンネームが使用されることはたまにあります)。撤回された論文にDOI(デジタルオブジェクト識別子)があることも珍しくありません。
Scholarly Kitchenの読者は、政府機関の計画で顕著な役割を果たす可能性が高い既存のIDインフラストラクチャ(DOI、ORCID、GRIDなど)や、これらを立ち上げて維持する上で出版社が果たした役割に精通することになるでしょう。政府機関は、必要なメタデータを収集してパブリックアクセス・リポジトリで公開できるようにするために、それを提供する出版社に大きく依存することになると予想できます。改善されたメタデータと識別子は、文献計量学的調査研究を行っている人や、差し止め措置なしでコンテンツが入手可能になることを考慮して定期購入の費用を再評価するためにUnsubにようなツールを使用している図書館員には特に歓迎されることになるでしょう。これはまた、論文の使用を文書化するための分散型使用状況ログへの出版社の関心を新たにする可能性もあります。
これらのメタデータと識別子が、科学と研究の完全性を保証するためにどのように想定されているかはあまり明確ではありません。著者情報が出版物から省略されることは滅多にありません(ただし、ペンネームが使用されることはたまにあります)。撤回された論文にDOI(デジタルオブジェクト識別子)があることも珍しくありません。これは、そのようなメタデータと識別子が、完全性の問題に対応するための戦略の開発に役立つ可能性がないと言っているわけではありません。しかし、本質的に、メタデータと識別子は評価的ではなく記述的であり、政府機関はメタデータを使用するようには指示されていません。要件は、それを収集して公的に利用できるようにすることです。しかしながら、このように公的に利用可能なデータが、完全性ためのサービスおよび製品のさらなる開発を促進する可能性があることは想像に難くありません。
(開示:リサは、ORCIDの理事会のメンバーである。)
カリン・ウルフ:新しいOSTPのメモについて私が最初に思ったのは、これは役立つだろうかという疑問でした。国民は、より多くの研究に基づく人文科学(歴史、文学、芸術など)を必死に必要としています。公共の広場、会話、特に政策決定に、より多くの人文科学の研究を取り入れることができるものは何でも素晴らしいです。私たちは根拠のない歴史的な主張に圧倒され、法律や政策が過去について知っている最高のものから驚くほど切り離され、それらが悲惨な結果をもたらすことも多いような世界を生きています。
私たちは根拠のない歴史的な主張に圧倒され、法律や政策が過去について知っている最高のものから驚くほど切り離され、それらが悲惨な結果をもたらすことも多いような世界を生きています。
ネルソンメモは、人文科学研究の重要性に対する無関心、あざけり、反対の潮流を根絶やしにする(ダジャレを言える時には言わないと)のに役立つでしょうか(訳注: 「根絶やし」とSTEMと引っかけている)?切実に必要とされている人文科学の研究を必要な場面へと押し出すことができるでしょうか?
オープンアクセスに関する非常に多くの問題と設計は、STEMに関するものです。この明白な点について考えてみてください。研究に対する連邦政府の支援についてのこのメモを発行したのは、ホワイトハウス科学技術政策局です。人文科学は、政府のSTEMへの支援が声高に叫ばれるのと比較して、提案のヒントのほんのささやきに過ぎないことはわかっています。同じことが学術出版にも当てはまります。学術出版は高額で大量に出版することを維持しなくてはならないような出版方針によって推進されていますが、助成額が少なく、論文の創出も消化も時間がかかり、多くの編集が行われ、ほとんどが非営利である人文科学系の出版とは、その在り方が多くの点においてほぼ正反対なのです。
人類には人文科学が必要です。美学や楽しみのためだけでなく(そういったことにも価値はありますが)、民主的なガバナンスのためにも必要なのです。
人類には人文科学が必要です。美学や楽しみのためだけでなく(そういったことにも価値はありますが)、民主的なガバナンスのためにも必要なのです。たとえば、パンデミック(または世界中の反民主主義運動の脅威、または増加する富の集中)に直面している場合、ワクチン科学と公衆衛生プロトコルだけでなく、ワクチン接種とプロトコルが行われる文化的・社会的背景を知ることは極めて有益です。では、これは役に立つのでしょうか?これが役立つかどうか、またどのように役立つかについて懸念はないのでしょうか?今後に注目しましょう。
マイケル・クラーク:新しいOSTPの政策は、野心的で広範な政策が更新されたものです。このメモは、研究と学識に資金を提供するすべての機関を含むように政策の範囲を拡大しているため、最大の機関(NIH、DOE、NSF、NASA、USDA、DOD)だけでなく、全米人文科学基金によって資金提供されている人文科学の研究にも適用されます。また、書籍の章、社説、会議の議事録など、適用されるコンテンツの範囲が広がる可能性もあります。最も注目すべきは、公開された論文で報告されたデータセットへの即時のパブリックアクセスが含まれている点です。これは科学にとって大変革をもたらす可能性がありますが、メモには詳細がほとんど記載されておらず、重要なイニシアチブとなる可能性が高いものを支援するための資金についても言及されていません。
ただし、政策の中心となるのは、2013年にホルドレンメモが発行されて以来、OSTPの政策であった、公開後12か月にわたり発効する差し止め措置の撤廃です。新しいOSTPの政策は、ホルドレンメモで概説されている「グリーンOA」政策の継続として位置付けられているようです。ただし、出版後の差し止め措置を撤廃することの意味は、おそらくグリーンOAではなく、ゴールド(ネルソンメモに付随する影響報告書で認識されているシナリオ)への移行になる可能性が高いでしょう。
私が同僚らとともにOSTPの政策とその意味に関する最近の分析で述べたように、2022年の学術出版の状況は、2013年とは大きく異なっています。プランS、転換契約、およびゴールドOAを選択するOA義務のない著者によってOAで公開されたコンテンツが遥かに多くなっています。「生まれつきOA」な出版社が繁盛しているのです。「伝統的な」出版社は、ポートフォリオのほぼ全体をハイブリッド型に移行し、完全なゴールドOAタイトルを着実にリリースしています。さらに、OAコンテンツ(著者が承認した原稿であれ、記録版であれ)は、今までよりも発見しやすくなっています。Google Scholarやその他のインデックスは、著者が承認した原稿を表に出しています。ResearchGateとAcademiaには、著者が提供した数百万本もの論文PDFが含まれています。自由にアクセスできる研究論文のコピーを見つけることは、10年前よりもはるかに簡単になっています。また、図書館員は、UnSubやCOUNTER5などのより洗練されたツールを使用して、ジャーナルの購読を評価する際にOAコンテンツを除外しています。
OSTPによる政策の更新は、何十万本もの追加の論文に自由にアクセスでき、容易に見つけられるようにすることで、これらの傾向を加速させることでしょう。これにより、多くのジャーナルの購読が次第に減っていくと思います。定期購読の実行可能期間の窓がどのくらいの時期にわたり開いているかは、政府機関レベルで定められる詳細と判断によって異なります。政府機関が、政府機関指定のリポジトリに著者が承認した原稿の寄託のみを要求し、寛大な再利用ライセンス(CC BY など)を要求しない場合、その期間は10年以上開いたままになる可能性があります。政府機関が寄託、バージョン、記録、または寛大な再利用ライセンスを必要する場合は、多くのジャーナルの定期購読の時代はもっと早く終わる可能性があります。
アン・マイケル:プランSは数年前に我々の注目を集めましたが、多くの出版社、特に主に米国が資金提供した研究を発表した出版社にとって、プランSの影響は無視できるほどのものであろうと思われていました。それは方向性を示すものでした。それにより、大部分の出版社への潜在的な影響をはるかに超えた会話が始まることになりました。
2022年のOSTPのメモが再び注目を集めています。それは、ライセンスの種類や権利の保持について規定するものではありませんが、あらゆる連邦政府機関から出資を受けている研究も含まれており、そのオープン性をデータにまで拡張し、資金提供を追跡するためのメタデータの要件(シェフの何人かが指摘しているように)が含まれています。多くの出版社にとって、その適用範囲の広いことで影響もかなり大きくなります。
2つのことが明らかになりました。OAは今後も進むべき方向であり、OSTPはアクセルを踏んだだけなのです!
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